こんにちは。LuxBike Blog編集部です。

「バイクの歴史を変えた名車」として、今なお世界中のライダーを魅了し続けるKawasakiのZ1とZ2。この2台は、オートバイという枠を超えて、もはや芸術品や歴史遺産のような扱いを受けていると言っても過言ではありません。しかし、これからZの世界に足を踏み入れようとしている方や、改めてその歴史を学び直したい方にとって、「Z1とZ2、一体何がそんなに違うの?」という疑問は最初にぶつかる壁ではないでしょうか。
見た目はまるで双子のように瓜二つ。しかし、中古車サイトを開けば価格には驚くほどの開きがあり、ベテランのライダーたちは「Z2こそが至高」「いや、Z1のパワーこそ本物」と熱く語り合います。実はこの2台の間には、単なる「排気量の大小」だけでは語り尽くせない、当時のエンジニアたちの壮絶な開発競争や、日本の法規制との戦い、そしてそれぞれのモデルに込められた「魂」の違いが存在するのです。
この記事では、私自身も長年興味を持ち続けてきたこの「Z1とZ2の違い」について、カタログスペックの数値的な比較はもちろん、開発の裏側にあるストーリーや、現代の中古車市場における価値の逆転現象、そして実車を見分けるためのマニアックな識別点まで、徹底的に掘り下げていきます。
この記事でわかること
- Z1とZ2の決定的なスペック差とエンジンの出力特性の違い
- 外観で見分けるためのエンブレムやメーター周りの識別点
- 中古市場でZ2の方が高値になる理由と希少価値の秘密
- 購入時に注意すべき車台番号による真贋判定のポイント
スペックから見るZ1とZ2の違い

一見すると双子のように瓜二つなZ1とZ2ですが、その中身、特にエンジンの設計思想には明確な違いが存在します。当時のKawasakiが「打倒ホンダCB750」を掲げ、世界最速を目指して作ったZ1。そして、日本の厳しい自主規制という足枷をはめられながらも、技術者たちが意地とプライドをかけて「ナナハンの頂点」を目指して再設計したZ2。ここでは、カタログスペックやメカニズムの視点から、この2台の技術的な差異について、マニアックな視点も交えながら深掘りしていきましょう。
排気量とボアストローク比の数値
まず、Z1とZ2を語る上で最も基本的、かつ最大の相違点はエンジンの排気量と、その性格を決定づける「ボア・ストローク比」です。ここには、当時のKawasaki開発陣の並々ならぬこだわりが隠されています。
北米市場をメインターゲットに開発されたZ1(900 Super Four)の排気量は903ccです。このエンジンのボア(シリンダーの内径)は66mm、ストローク(ピストンの動く距離)も66mmという、縦横が全く同じ長さの「スクエアストローク」を採用しています。一般的に、スクエア設定は低回転域での粘り強いトルクと、高回転域までのスムーズな吹け上がりを両立させるための「黄金比」と言われており、Z1の、どこから開けてもパワーがついてくる雄大な走りはここから生まれています。
一方、日本国内向けのZ2(750RS)は、当時のメーカー自主規制に合わせて排気量を750cc以下にする必要がありました。通常、コストを抑えて排気量を下げるなら、ストロークはそのままにボア(穴の大きさ)だけを小さくするのが定石です。しかし、Kawasakiのエンジニアたちはその安易な道を選びませんでした。「Z1の単なるスケールダウン版(廉価版)にはしたくない」という強烈なプライドがあったからでしょう。
結果としてZ2は、ボアを64mmへと2mm縮小し、さらにストロークを66mmから58mmへと大幅に短縮しました。排気量は746ccとなりますが、これによりZ2はZ1とは全く異なる「ショートストロークエンジン」として生まれ変わったのです。ショートストローク化は、ピストンの移動速度を抑えられるため、理論上より高回転まで回すことが可能になります。Z2が「高回転型」と言われる所以は、この専用設計されたエンジンのディメンションにあるのです。
| 項目 | Kawasaki Z1 (輸出仕様) | Kawasaki Z2 (国内仕様) |
|---|---|---|
| 正式名称 | 900 Super Four | 750RS (Roadster) |
| 排気量 | 903 cc | 746 cc |
| ボア × ストローク | 66mm × 66mm (スクエア) | 64mm × 58mm (ショート) |
| 圧縮比 | 8.5 : 1 | 9.0 : 1 |
| エンジン性格 | トルク重視・オールラウンダー | 高回転型・レスポンス重視 |
馬力の違いとエンジンの出力特性
排気量の違いは、当然ながら「馬力(パワー)」と「トルク」の差として数値に表れますが、実際に乗ったときのフィーリングの差は、数値以上に大きいと言われています。
Z1の最高出力は82PS / 8,500rpm。これは1972年の発売当時、量産車としては世界最強のスペックでした。最大トルクも7.5kg-m(約73.5N・m)と非常に太く、トップギアに入れたままズボラな運転をしても、スロットルをひねるだけで怒涛の加速を見せてくれます。広大なアメリカ大陸のハイウェイを、余裕を持ってクルージングするために生まれた「王者の走り」ですね。
対してZ2の最高出力は69PS / 9,000rpmです。数値だけ見ればZ1より13馬力低いですが、注目していただきたいのは「発生回転数」です。Z1よりも500rpm高い、9,000rpmでピークパワーを発生させる設定になっています。これは先述したショートストローク化の恩恵であり、エンジニアが意図したキャラクター付けでもあります。
Z2のトルクはZ1に比べれば細いですが、その分、ライダーが積極的にギアチェンジを行い、エンジンを「回してパワーを絞り出す」面白さがあります。4,000回転、6,000回転、そしてレッドゾーン手前の9,000回転へと針が跳ね上がるにつれて、集合管(純正は4本出しですが)から奏でられるサウンドが甲高くなり、ドラマチックな加速を見せる。Z1が「剛」なら、Z2は「鋭」といったところでしょうか。
現代のZ900RSとの比較
ちなみに、現代のZ900RSも、Z1の「余裕のあるトルク」とZ2の「回して楽しむフィーリング」をうまく融合させたような特性を持っています。もし、Z1/Z2のスタイリングに惹かれつつも、故障のリスクや維持費が心配な方は、現代の技術で蘇ったZ900RSを検討するのも一つの賢い選択肢かもしれません。
【関連記事】Z900RSの中古はなぜ高い?価格高騰の理由と2026年の展望
エンブレムや外見での見分け方

街中やツーリング先の道の駅でZを見かけた際、「おっ、Zだ!…でもこれ、Z1かな?Z2かな?」と迷ってしまった経験はありませんか? カスタムされている車両も多いので難易度は高いですが、ノーマルに近い状態であれば、いくつかのポイントを見ることで判別が可能です。その最も確実な識別点が「サイドカバーのエンブレム」です。
Z1のサイドカバーには、金色の文字で「900 DOUBLE OVERHEAD CAMSHAFT」と誇らしげに記されています。この「900」という数字こそが、世界最速の証でした。一方、Z2のエンブレムには「750 DOUBLE OVERHEAD CAMSHAFT」と記されています。非常にシンプルですが、これが最も基本的な見分け方です。
また、非常にマニアックな点ですが、初期型のZ1とZ2では、タンクの塗装パターン(通称:火の玉カラー)や、サイドカバーの形状自体は共通です。しかし、輸出先の国によっては、リアウインカーの取り付け位置が異なったり(北米仕様は赤いリフレクターが付いていることが多い)、テールランプの土台の形状が微妙に違ったりと、法規に合わせた細かい差異が存在します。ただ、日本国内にあるZ1の多くは「逆輸入車」として入ってきているため、国内で登録する際に日本の保安基準に合わせて改造されていることも多く、外装だけで100%見分けるのは至難の業とも言えます。
豆知識:タンクの形状は同じ?
Z1とZ2の燃料タンクは、基本的に同じ金型で作られた「ティアドロップ型」タンクです。しかし、実は年式によって「内プレス」と「外プレス」といった溶接痕の違いなどがあり、マニアの間ではこのタンクの仕様だけで一晩語り明かせるほどの奥深い世界が広がっています。
速度警告灯などメーター周りの装備

ライダーがまたがった時に一番目に入る部分、コックピット(メーター周り)にも、Z1とZ2の決定的な違いがあります。これは当時の日本独自の「交通事情」と「法規制」が色濃く反映されているポイントです。
日本国内仕様であるZ2のスピードメーターとタコメーターの間には、「速度警告灯(スピードウォーニングランプ)」と呼ばれる赤いランプが装備されています。これは、走行速度が80km/hを超えると点灯し、ライダーに「スピードの出し過ぎ」を警告するためのものです。1970年代から80年代にかけての日本のバイクには義務付けられていた装備で、当時のライダーたちにとっては「余計なお世話」とも言える装備でしたが、今となっては「昭和のバイク」を象徴する懐かしいディテールの一つですね。
一方、海外向けのZ1には、当然ながらこのような規制はありませんので、警告灯のスペースは空洞になっているか、そもそもランプが存在しません。また、スピードメーターの目盛り(スケール)も異なります。北米仕様のZ1は「マイル(mph)」表示がメインで、220km/h〜240km/h相当まで刻まれていますが、Z2は「キロメートル(km/h)」表示のみです。
もし、目の前のZのメーター内に赤いランプが埋め込まれていたり、メーターパネルに「速度警告」に関する日本語のステッカーが貼られていたりしたら、それは正真正銘の「国内物(Z2)」である可能性が高いと言えるでしょう。
クランクなどエンジン内部の構造

ここは実際にエンジンを分解(オーバーホール)してみないと分からない、まさに「心臓部」の話になりますが、Z1とZ2の決定的な違いとして知っておいていただきたいのが「クランクシャフト」の形状です。
先ほど「Z2はショートストローク化された」とお話ししましたが、これに伴い、エンジンの回転バランスを司るクランクシャフトもZ2専用に設計されています。Z1のクランクシャフトは「フルカウンター」と呼ばれる丸い形状のウェイトを持っていますが、Z2のクランクシャフトは、レスポンス向上と軽量化、そしてバランス取りのために、あえておむすび型のような形状に削り込まれた専用品が採用されています。
メーカーの立場からすれば、Z1の部品をそのまま流用して安く作りたいところです。しかし、当時のKawasakiの開発者たちは「排気量を下げることでパワーが落ちる分、レスポンスと高回転の伸びで勝負するんだ」という執念を持っていたのでしょう。このZ2専用クランクこそが、Z1の「重厚な回り方」とは異なる、Z2特有の「ヒュンヒュンと軽く回る」官能的なフィーリングを生み出している正体なのです。
歴史的背景とZ1とZ2の違い
ここまでメカニズムの違いを見てきましたが、現代において「Z1」と「Z2」を分かつ最大の要因は、実はスペックではなく、その後の歴史が作り上げた「ブランド価値」や「ストーリー」にあります。「なぜZ2の方が高いことがあるの?」「本物はどうやって見分けるの?」といった、市場におけるz1 z2 違いの核心、そして闇の部分にも迫ります。
生産台数から見る希少価値の差

モノの値段は「需要と供給」で決まりますが、Z1とZ2の供給量(生産台数)には天と地ほどの差があります。Z1は世界戦略車として北米や欧州へ大量に輸出され、1972年の初期型から1975年のZ1Bまでを含めると、約85,000台以上が生産されたと言われています。現存数も多く、現在でもアメリカの納屋から「バーンファインド(納屋で眠っていた車両)」として発見されることも珍しくありません。
一方で、日本国内専用モデルだったZ2(750RS)の生産台数は、その数分の一、資料によってはZ1の20%程度にも満たないと言われています。特に、Z1と同様の「火の玉カラー」を纏った初期型のZ2は極めて数が少なく、海外の熱心なコレクターたちからは「幻のJDM(Japanese Domestic Market)スーパーバイク」として垂涎の的となっています。
日本国内においても、事故や解体で失われた個体も多いため、現存する「正規のZ2」は非常にレアです。この圧倒的な「タマ数の少なさ」が、Z2の価格を高騰させている根本的な原因の一つです。
(出典:自動車技術会『日本の自動車技術330選』 カワサキ900 Super Fourより)
https://www.jsae.or.jp/autotech/330.html
中古市場における値段の逆転現象

ここで非常に興味深いのが、日本の中古車市場における価格の「逆転現象」です。本来、排気量が大きく、パワーもあり、オリジナルの設計であるZ1の方が「上位モデル」として高く評価されてもおかしくありません。しかし、日本では長年、「Z1よりもZ2の方が高い」という現象が続いてきました。
これには、日本独自の免許制度の歴史が深く関わっています。1975年に自動二輪免許が改正され、「限定解除審査」という超難関試験に合格しなければ750cc以上のバイク(もちろん逆輸入車のZ1も含む)に乗ることができなくなりました。この時代、大型バイクに乗ること自体がステータスであり、その頂点に君臨していたのが「ナナハン」ことZ2だったのです。
さらに、1990年代に大ヒットした漫画『GTO』や『湘南純愛組!』などの影響も計り知れません。主人公が愛車としてZ2(ZII)を駆る姿に憧れた世代にとって、Z2は単なるバイクではなく「青春の象徴」であり「英雄の乗り物」でした。「Z1の方が速いのは分かっている。でも、俺はZ2に乗りたいんだ」という日本人のメンタリティが、Z2神話を形成し、スペックを超えたプレミアム価格を維持させ続けているのです。
車台番号で確認する真贋の判定
Z1とZ2の人気が高騰するにつれて、残念ながら市場には「ニセモノ」や「怪しい車両」が出回るようになりました。特に問題なのが、Z1のフレームに750ccのエンジンを載せ替えたり、最悪の場合、車台番号(フレームナンバー)を削り取ってZ2の番号を打ち直したりする「偽造Z2」の存在です。
Z1とZ2はフレームの基本形状がほぼ同じであるため、外見だけで見抜くのはプロでも困難な場合があります。そこで、購入を検討する際に必ず確認しなければならないのが、ネック部分(ハンドルの付け根)に刻印された車台番号(VIN)です。
【最重要】ここだけはチェック!真贋判定リスト
- Kawasaki Z1 (900 Super Four): 車台番号は必ず「Z1F-」から始まります。
- Kawasaki Z2 (750RS): 車台番号は必ず「Z2F-」から始まります。
同様に、エンジン番号もZ1は「Z1E-」、Z2は「Z2E-」から始まります。もし「フレームはZ2Fなのに、エンジンはZ1E」であれば、それはエンジンスワップされた車両です。また、刻印のフォントが不自然だったり、周辺の塗装だけが新しかったりする場合は、リスタンプ(打刻の改ざん)の可能性がありますので、手を出さないのが無難です。
乗り味やハンドリングの特性比較
最後に、実際にオーナーになったとして、日々のライディングで感じる「乗り味」の違いについて触れておきましょう。
Z1は、その強大なトルクと230kg超の車体重量が相まって、どっしりとした安定感が魅力です。高速道路を使って遠くの街までツーリングに行ったり、海沿いの道を高いギアで流したりするようなシチュエーションでは、Z1の「ゆとり」が最高の武器になります。アクセルを少し開けるだけでグワッと車体を前に押し出す力強さは、まさに「キング・オブ・モーターサイクル」の貫禄です。
対してZ2は、車体の重さこそZ1と同じですが、エンジンの回転上昇が軽やかなため、不思議とZ1よりも「軽く」感じることがあります。日本の峠道のような、タイトなコーナーが続く道では、Z2の方が水を得た魚のように生き生きと走ります。適切なギアを選び、エンジンをしっかりと回してパワーバンドをキープする。そんな「操る楽しさ」を求めるなら、実は日本の道路事情にはZ2の方がマッチしているのかもしれません。
どちらも現代のバイクに比べれば「重くて、止まらない」旧車であることに変わりはありません。しかし、その不便さも含めて愛おしくなるような、濃厚な「対話」ができるのが、空冷Zの最大の魅力なのだと思います。
さて、ここまでの解説でZ1とZ2の違いについてかなり詳しくなれたはずです。しかし、実はまだまだ語り尽くせない魅力があります。もし、これらの旧車を維持するためのメンテナンスや、現代の交通事情に合わせたカスタムについて興味が出てきた方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。
結論:Z1とZ2の違いと選び方
長くなりましたが、ここまでz1 z2 違いについて、スペックから歴史的背景まで様々な角度から比較してきました。最終的に「どっちを買えばいいの?」という問いに対する答えは、あなたがバイクに何を求めているか、その「価値観」によって決まります。
あなたに合うのはどっち?
- Z1がおすすめな人:
「世界最速」の称号を持つオリジナルの威厳を味わいたい人。トルクフルな走りでロングツーリングを楽しみたい人。そして、比較的タマ数が多くパーツも豊富な環境で、少しでも安く(といっても高額ですが)維持したい現実派な人。
- Z2がおすすめな人:
日本の二輪史における「ナナハン」というロマンに浸りたい人。高回転エンジンを回して操るスポーツライディングの楽しさを求める人。そして、所有すること自体がステータスとなる、希少価値の高い「幻の名車」を手に入れる満足感を最優先したい人。
Z1を選ぶか、Z2を選ぶか。それは単なるバイク選びではなく、あなたの「生き方」や「ロマン」の選択でもあります。どちらを選んだとしても、その先に待っているのは、現代のバイクでは決して味わえない濃密なオートバイライフであることは間違いありません。ぜひ、あなたにとって最高のパートナーとなる一台を見つけてくださいね。